ナイキストの安定判別法 (Nyquist stability criterion)は、簡単に閉ループ制御系の安定性を判別する方法です。ここでは、なぜナイキストの安定判別法が必要なのかを考えてから、ナイキストの安定判別法を導出してみます。
図1.閉ループ制御系
なぜナイキストの安定判別法が必要なのか
図1. のような一般の閉ループ制御系を考えます。この系の伝達関数 G(s) は、
G(s):=Y(s)R(s)=P(s)C(s)1+P(s)C(s)
です。この系が安定かどうかは極 (1+P(s)C(s)=0 の s についての解) の符号を調べれば分かります(極と安定性の関係については こちら)。しかし、一般の多項式の複素解を手計算で求めるのは簡単ではありません。ではどうしたらいいでしょうか?ナイキストの安定判別法は極を求めずに、実部が正の極があるかどうかを調べることで、極を求める計算が難いので安定性が分からない、という問題を解決する方法なのです。
ナイキストの安定判別法の導出
ナイキストの安定判別法は、 P(s)C(s) については、事前に設計したり、モデル化したりすることで分かっていることを利用します。
まず、 P(s)C(s) の零点を zi,⋯,zm 、極を p1,⋯pn が分かっているとして、 P(s)C(s) は
P(s)C(s)=K(s−z1)⋯(s−zm)(s−p1)⋯(s−pn)
と表すことができます。よって、特性方程式は
1+P(s)C(s)=(s−p1)⋯(s−pn)+K(s−z1)⋯(s−zm)(s−p1)⋯(s−pn)=0
となります。さらに、特性方程式の零点を r1,⋯,rn とおけば、
1+P(s)C(s)=A(s−r1)⋯(s−rn)(s−p1)⋯(s−pn)=0
と表すことができます。ここで、伝達関数は
G(s)=P(s)C(s)1+P(s)C(s)=K(s−z1)⋯(s−zm)(s−p1)⋯(s−pn)(s−p1)⋯(s−pn)A(s−r1)⋯(s−rn)=K(s−z1)⋯(s−zm)A(s−r1)⋯(s−rn)
となるので、特性方程式の零点 r1,⋯,rn は、伝達関数の極になっています。いま 1+P(s)C(s) の零点 ri,⋯,rn と極 pi,⋯,pm のうち、実部が正であるものの数をそれぞれ、 R 、 P とします。いまのところ、 P は分かりますが、 R は分かりません。
次に、図2(A)に示すように、複素平面において、右半平面全体を虚軸と半径無限大の円周で囲む閉曲線 C を考えます。 s を閉曲線 C にそって、時計周りに1周させたときの 1+P(s)C(s) の軌跡 Γ をプロットします。この Γ が原点を中心に時計方向に回る回転数を N とします。
図2. (A) 閉曲線 C (B)軌跡 Γ (適当です) この場合 N=2
ここで、 複素数 b1:=c1eiθ1,b2:=c2eiθ2 を考えると、その積の位相は、
∠b1b2=∠c1c2ei(θ1+θ2)=θ1+θ2=∠b1+∠b2
となり、それぞれの位相の和で表せることを使うと、1+P(s)C(s) の位相 θ は式 () より、
θ=n∑i∠(s−ri)−n∑j∠(s−pj)
となります。 s を閉曲線 C にそって時計回りに1周させたとき、 ∠(s−ri) 、∠(s−pi) がどう変化するかを考えると、 ri 、 pi の実部が正のときは、ベクトル s−ri 、 s−pi が時計周りに1回転し、そうでないときには、回転しないことが分かります。よって、その和である θ について考えると、 1+P(s)C(s) が原点を中心に回転する数は、 実部が正である ri の個数 R から、実部が正である pi の個数 P をひいたものになります。すなわち、
N=R+P
が成り立ちます。軌跡 Γ のプロットから N が分かり、 P はもともと分かっているので、 R が求めることができます! 改めて R が何を表していたのか確認すると、伝達関数の極のうち、実部が正のものの個数でした。よって、閉ループ制御系は R=0 なら安定、 R>0 なら不安定です。
ここで、軌跡 Γ をどう描いたらいいのか考えてみましょう。虚軸上の点は s を [−i∞,i∞] の間で動かせばいいでしょう。では、半径無限大の円周上の点はどうなるでしょうか。 s=aeiφ とすると、軌跡 Γ(s) は
Γ(s)=lima→∞1+P(s)C(s)=lima→∞A(aeiφ−r1)⋯(aeiφ−rn)(aeiφ−p1)⋯(aeiφ−pn)=A
となり、結局閉曲線 C 上で s を動かしたときの軌跡は区間 [−i∞,i∞] の間で動かしたときと変わらないことが分かります。
また、 1+P(s)C(s) が原点を中心に回転する数は、P(s)C(s) が複素平面上の点 (−1,0) を中心に回転する数と等しいです。
これまでのことを整理すると、
- P(s)C(s) の実部が正の極の数を P とする
- s=iw とし P(iw)C(iw) の区間 w∈[−∞,∞] での軌道 Γ を描き、複素平面上の点 (−1,0) を中心に時計回りに回転した数を N とする
- R=N−P を計算し、R=0 なら安定、 R>0 なら不安定
これがナイキストの安定判別法です。
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